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世界で最も美しい公園

シカゴの川に浮かぶ緑の公園と水質改善を支える植物の仕組み

Posted on October 16, 20261min read2 views

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アメリカのシカゴには、川の水面に緑豊かな庭園が浮かぶ珍しい公園がある。名前は「Wild Mile」。かつて工業地帯として利用されていたシカゴ川の北支流沿いに、植物を植えた浮体式の人工島と歩行者用の遊歩道を組み合わせた新しい公共空間だ。水辺を歩くと、足元には植物の根が川の中へ伸び、その周囲を小魚や水生生物が行き来している。見た目は美しい水上庭園だが、目的は景観を整えることだけではない。失われた水辺の生態系を取り戻し、植物の働きを利用して水質改善を目指すという、環境再生の実験でもある。工業都市の川を自然豊かな場所へ変えるこの試みは、世界の都市が抱える水環境の問題に新しい可能性を示している。

工業用水路から生まれた水上の公園

シカゴ川は、長い間アメリカの産業発展を支えてきた重要な水路だ。船舶による物資輸送や工場の操業に利用され、川岸の多くはコンクリートや鋼鉄の護岸で固められてきた。しかし、こうした整備は水運や都市開発に役立つ一方、水辺に生息する植物や生物にとって必要な環境を減らしてしまった。自然の川岸には浅瀬や湿地、木の根などがあり、小魚や昆虫が身を隠したり、餌を探したりできる。人工的な護岸ではそのような場所が不足しやすく、川の生態系が単純になるという問題がある。シカゴ川でも、過去の水質汚染と自然環境の喪失が長く課題になってきた。

この状況を変えようとしたのが、シカゴの非営利団体Urban Riversだ。プロジェクトの構想は2013年に始まり、2017年には約160フィート、約49メートルの浮体式湿地が設置された。2018年からはShedd Aquariumも協力し、植物の植栽や生物調査、環境教育などを支援している。2021年には一般利用に向けた浮遊式遊歩道の整備が進み、2022年6月に公園の最初の区域が正式に公開された。2024年にはさらに約300フィート、約91メートルが追加され、現在の整備区間は約700フィート、約213メートルとなっている。名称のWild Mileは将来的に約1マイルの水上公園を作る構想に由来するもので、現時点ですべてが完成しているわけではない。

川に浮かぶ庭園を支える特殊な構造

Wild Mileの特徴は、植物を育てるための人工島が水面に浮かんでいることだ。基礎には、スコットランドのBiomatrix Waterが製造する浮体式モジュールが使用されている。長方形や三角形の部材を金属製の接続部分で組み合わせ、設置する場所に合わせて形を変えられる構造になっている。組み立てたモジュールの上に植栽用の布や軽量な培地を配置し、地域の自然環境に適した植物を植える。植物が成長すると、地上部分には湿地のような緑が広がり、水中では根が浮体の隙間から伸びていく。完成した人工島は川底や護岸につながれた係留設備によって固定され、水位が変化しても上下に動けるようになっている。

この仕組みには、従来の河川整備とは異なる利点がある。自然の岸辺を新たに造成するには、護岸の撤去や地形の変更など、大規模な工事が必要になる場合がある。一方、浮体式の庭園なら、既存の護岸を残しながら水面に新しい生息環境を作ることができる。Wild Mileでは人工島だけでなく、人が歩ける浮遊式の遊歩道や、川の水面下に設置する生物用の構造物も組み合わせている。ただし、浮いているからといって設置場所を自由に選べるわけではない。船舶の通行、流速、係留設備の強度、水位の変化などを考慮する必要がある。実際の建設では、マリーナの設備に似た方法でアンカーや桟橋を設置し、その後に植物を育てるモジュールを取り付けている。

水中へ伸びる植物の根が水質に与える影響

浮体式湿地の重要な働きは、水面の下で起きている。植物の根が川の中へ伸びると、その表面には細菌や微細な藻類などの微生物が付着し、生物膜と呼ばれる環境が形成される。こうした微生物は水中の有機物や栄養塩の循環に関わり、植物自身も成長する過程で窒素やリンなどを取り込む。窒素やリンは生物に必要な栄養素だが、水中に過剰に存在すると藻類が増えやすくなり、水質に影響を与える場合がある。浮体式湿地では、植物と微生物が組み合わさることで、こうした物質の一部を減らす可能性がある。また、密集した根は水の流れを弱め、小さな生物が活動しやすい空間を作る役割も持っている。

Urban Riversとイリノイ州立大学の研究者たちは、2018年からWild Mile周辺の水質を調査してきた。2021年に発表された研究では、浮体式湿地の上流と下流でリン酸塩や硝酸態窒素などの濃度を比較し、植物の根による栄養塩の取り込みを示唆する結果が報告された。ただし、これはWild Mileが川全体を浄化したという意味ではない。河川の水質は雨量、流速、上流からの汚染物質、気温など、さまざまな条件によって変化する。また、植物が吸収できる物質や量にも限界がある。浮体式湿地は水質改善を補助する技術であり、下水処理施設や汚染源への対策を置き換えるものではない。研究者たちは、長期間の測定を通じて実際にどの程度の効果があるのかを引き続き調べている。

魚や昆虫が戻ってくる小さな水中の森

Wild Mileが注目される理由は、水質だけでなく、生物のすみかを作り出している点にもある。人工的な護岸に囲まれた川では、小さな魚が大型の魚から身を隠せる場所が少なくなりやすい。ところが、植物の根が水中に広がると、その間に複雑な空間が生まれる。小魚は根の周囲で餌を探したり、外敵から身を隠したりできるようになる。また、水中の根や植物に付着する生物は、魚や水鳥の餌にもなる。水面の上では花を訪れる昆虫や鳥類が活動し、水面の下では小魚や水生昆虫が利用する。浮体式の人工島は、上下に異なる環境を持つ小さな湿地として機能している。

2023年、Shedd Aquariumなどが参加した共同研究では、シカゴ、ボストン、ボルチモアの3都市に設置された浮体式湿地の効果が調べられた。シカゴの調査地点では、在来の小魚が増え、外来種のコイが少なくなる傾向が確認されている。特に、イリノイ州で絶滅危惧種に指定されているバンデッド・キリフィッシュという小型魚は、浮体式湿地のある場所で多く観察された。こうした結果は、人工島が魚の避難場所や餌場として利用されている可能性を示している。ただし、魚の増減には河川全体の水質改善なども関係するため、すべてをWild Mileだけの成果と考えることはできない。研究者たちは魚の移動や繁殖、水生昆虫の多様性などを継続して調査し、環境再生の効果を詳しく評価している。

歩いて楽しめる公園と市民による環境再生

Wild Mileは研究施設であると同時に、市民が利用できる公共空間でもある。公園の入口はシカゴ市内の905 W Eastman Street付近にあり、歩行者用のスロープを通って浮遊式の遊歩道へ入ることができる。通路からは植物の茂る水面を間近に観察でき、街の建物が並ぶ風景の中で、川の自然を感じられる。Urban Riversの公式案内によると、公園は原則として24時間利用でき、バリアフリーに対応したアクセス設備も設けられている。また、Shedd Aquariumによるカヤックツアーでは、専門スタッフの案内を受けながら水上から植物や魚の生息環境を観察できる。通常の都市公園とは異なり、川の中に作られた自然環境そのものが見どころになっている。

地域住民が環境再生に参加できることも、このプロジェクトの特徴だ。Urban Riversではボランティアが植物の植え付けや管理、水質調査、生物観察などを支援している。例えば、水生昆虫の調査では、川の中に小さな生物が入り込める専用の装置を6〜8週間設置し、回収後に確認された生物の種類を分析する。こうした作業は、単に植物を増やすだけでなく、実際に生態系が変化しているかを確かめるために重要だ。2025年にはShedd AquariumとUrban Riversがシカゴ川南支流でも新しい浮体式湿地を増設し、約1,460平方フィートの生息環境を追加した。Wild Mileで得られた経験は、同じ都市の別の水域を再生する取り組みにも生かされている。

都市の川に自然を取り戻すための課題

浮体式湿地には多くの可能性がある一方、維持管理の課題も残されている。人工島は水面に浮かんでいるため、強風や増水、船舶による波などに耐えなければならない。植物も季節によって成長や枯死を繰り返すため、状態を確認して必要に応じた手入れを行う必要がある。また、水中に伸びた根へごみが絡まったり、浮体の接続部分が傷んだりする可能性もある。植物の生育が順調でも、河川に新しい汚染物質が流れ込めば、水質改善の効果が追いつかない場合がある。Wild Mileのような施設を広げるには、設置時の費用だけでなく、継続的な点検、研究、地域による管理体制を整えることが欠かせない。

それでも、Wild Mileが示した発想には大きな価値がある。かつて工場や貨物船のために整備された川でも、護岸をすべて撤去することなく、植物や魚が利用できる環境を増やせる可能性があるからだ。自然の湿地を完全に再現することは難しいが、人工的な水路の一部に緑を取り戻すだけでも、周辺の生物に新しい居場所を提供できる。さらに、人が水辺を歩き、川の変化を観察し、環境保全に参加できることは、都市の自然に対する関心を高めるきっかけにもなる。シカゴ川の浮かぶ庭園は、見た目の美しい新しい観光施設というだけではない。植物の力と現代の土木技術を組み合わせ、都市と川との関係を少しずつ変えていく取り組みなのである。

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